2006年01月01日

上福岡市の水の話(シリーズ第3回)


 
~上福岡の水の話(シリーズ第3回)~
 
岩木英二と上福岡市民連合NO.76に掲載
1994.10.15
 
 
上福岡浄水場はこんなとこ
 先日、上福岡の浄水場を見学させていただいた。飲み水の安定した供給のために、二十四時間体制で勤務しておられる職員、スタッフの方には頭が下がる思いがした。
 上福岡の浄水場でいちばん大変なのは、県から送られてくる「県水」(荒川の水をくみ上げ、大久保浄水場で飲み水にしたもの)の量が毎日きっちりと決められていて、機械的に送られてくるのにたいし、使う側はその時々で多かったり、少なかったりすることにあるようだ。
 雨が続いたあとの晴れの日には一斉に洗濯や風呂の使用量が増えるし、盆や正月ともなれば工場がストップして使用量がぐんと減るということが起きる。上福岡では県水のほかに市内五つの深井戸からくみ上げている地下水をブレンドして市民に供給しているのだが、限られた施設を使って、日量の決まっている県水と市の地下水をあれこれ調整しながら市民に送りつづけるのである。水が足りなくなっても大変だが、余ってあふれたらなお大変だ。人が使う水の量は予測どおりというわけにはいかないのだろう。職員の方はデーターを見つめながら、気の抜けない毎日を送っている様子だった。
 浄水場というと、大きな設備で近代的なイメージなのだが、そこで働く人の苦労は、なかなか人間的な感じがしたのである。
 
地下水はおいしい
 この浄水場の見学の折り、たいへん興味深い実験をさせてもらった。職員の方が三種類の器に、それぞれ県水、地下水、双方をブレンドしてある上福岡の水道水を入れ、「おいしい順に並べてみてください」というのである。
 同行した人のうち、若い十代の青年は「おれ水なんか飲んだことねーからなあ」と戸惑っていたが、それでも六人中、五人の答えはぴったりと一致した。「おいしい」と感じた方から地下水、ブレンド水、県水の順である。飲み比べてその明快さに驚いたほどである。上福岡の地下水がいかに貴重なものであるかを、改めて教えられたようであった。
 地下水というと「何のことやら」と思う人でも、井戸水といえば馴染みのある感じを抱くだろう。上福岡の水は以前は井戸水だけを使っていた時代があった。いや、ちょっと前まで日本の大部分が井戸水を主要な飲み水にしていたのである。
 
地盤沈下は大丈夫か
 ところが、井戸水に汚染がひろがる。地盤沈下という公害が生まれる。主にはこの二つの理由で、井戸水は河川水に切り換えるべしという政策が進められてきた。
 まず、地盤沈下の問題を考えてみよう。雨が降って、それが地下に浸透して地下水になる。地下水は川のように流れているのではなく、土壌が水分を含んだ状態だから、その適量を越えて水をくみ上げれば、粘土層の脆弱部分が収縮して地盤沈下となる。しかし、地下水が滋養されていく適量を越えなければ、それは有効な資源として半永久的に使えるわけである。
 地下水の汲み上げがある程度制限された結果、すでに東京都などでは、地盤沈下は緩慢、沈静化しつつあるという。飲み水に必要な程度の量ならば、その大部分を地下水に依存しても地盤沈下は進行しない、そんな見方を示す研究者が増えてきた。おいしく、きれいな地下水は飲み水にして、水をたくさん使う工業、農業用水に河川水を回していこうという考え方である。

 
地下水の安全性は
 安全性はどうか。上福岡の地下水が水道水基準に低触してきたのは、硝酸性窒素、亜硝酸性窒素の含有量がわずかに基準値を越えたという点である。埼玉県西部にも広がっている有機溶剤のトリクロロエチレンなどの汚染物質は、さいさい上福岡の地下水からは基準値を上回って検出されてはいない。
 それはともかく、これらの地下水の汚染を浄化する技術はわりと簡単で、コスト的にも安く済むそうだ。上野台団地は、住民に地下水を供給しつづけているが、そこでは亜硝酸性窒素の除去装置が活躍している。上野台二千世帯分の水を確保するこの装置は、工事費を含めて数千万円ほどだそうである。莫大な税金をつぎ込んだ巨大ダムから流れ落ちる荒川の水を浄化し、トリハロメタンなどの問題を含んだコストの高い県水よりも、おいしく、安く、安全な水という点で地下水の優勢は明らかである。それなのに上福岡市は将来上野台団地にも、市の水道を導入する計画を持っているままだ。地下水を守っていくための議論は今後ますます大切なものになりそうである。
 
江川にムサシトミヨを
 上福岡を流れる江川は、大部分が暗渠になりコンクリートで蓋をされてしまった。わずかに駒林周辺で流れが見られるが、そこを良く見ると、所々でボコボコと湧き水がでているのがわかる。五月に行われた「水からの速達」上映の際のシンポジウムで、生態系保護協会の野沢裕司さんが、この湧き水を利用して上福岡の在来魚であるムサシトミヨを繁殖させようと呼びかけていた。この計画を実現するにあたって、水質や環境などの調査はこれからだそうだが、なんだか夢のある話ではないか。これも地下水を有効に利用する未来的な方法の一つといえるだろう。キチンと整備されて蓋をした江川と、自然の湧き水を生かした江川と、皆さんどちらが好ましいと思いますか。
 (第三回終了)

上福岡市の水の話(シリーズ第2回)


 
~上福岡の水の話(シリーズ第2回)~

岩木英二と上福岡市民連合NO.75に掲載
1994.6.25
 
三月、水道水に異臭が発生
市民連合に市民から通報
 

 「上福岡の水の話」第一回を載せた当紙前号の発行後、私たち市民連合には水にまつわる様々な意見、報告がたくさん寄せられた。その中から今回は大原に住むKさん(男性)からの電話を紹介しておきたい。
 それは次ぎのような内容だった。
 「三月十日前後、水道水に異臭がするようになり、それが三日ほど続いた。とても飲めない状態だったので市の水道課に問い合わせたが、当初は要領の得ない返答しかもらえなかった。その後、同じ訴えが何件かあり、どうやらそれは大久保浄水場の電気事故によるものらしいと水道課から説明をうけた。真偽のほどを確かめてくれないか。」
 そこでさっそく (といっても四月中旬なのだが)大久保浄水場に出向いたついでにこの問題について聞いてみることにした。
 「この近代的管理の行き届いた浄水場で電気事故なんて・・・。」
 最初に質問を受けつけてくれた担当官は訝しげな様子だったが、水質を受け持つ担当の技術者がでてきて事態について説明をしてくれた。
 「たしかに三月は二回ほど停電事故が発生しました。そのため配水が一時ストップし、配水管中のスラッジ(水垢)が流れたと思われます。水道水の異臭はそのためのもので危険性はありません。」
 正直なところ、私たちの仲間で三月十日前後の水道水の異変に気づいた人はいなかったし、また大原の人からの訴えしか聞いていないので、もっと小さな範囲での事故かなとも思っていた。ところが実際の事故の影響は、大久保浄水場の配水域全体(なんと埼玉県内十九の自治体)にもおよぶものだった。
 浄水場では「危険性はない」というが、Kさんは「飲めない状態」といっている。
 サンプルを採取していたわけではないので、その「安全」の度合いを今では確かめようがないが、巨大設備のもたらす事故の恐ろしさを感じないわけにはいかない。
 「人の生命にかかわる問題でしょう。事故に対する防災システムはどうなっているのでしょう。市民への通報義務みたいなものはないのでしょうか。いったいだれが安全を保証するのでしょう。」
 Kさんはこのように憤っていた。Kさんとは電話のやり取りだけだったが、このことばは今でも耳に残っている。

  
大久保浄水場ではいつでも見学を受け付けている
 
上福岡市の水道水
ドイツの基準値を上回る

 あんまり重箱の隅をつつくようなことは言いたくないのだが、一方的に「安全」が強調されているので、少しは文句を付けておくべきだと思う。もちろんそれは、飲み水の安全のために努力されている市の水道部を揶揄したいからではない。その水を飲んでいる多くの人に関心を失って欲しくないからである。
 四月一日発行の市報「かみふくおか」に新水質基準による二月九日の水質検査報告が公表され「すべて水質基準値内」で「安全でキレイな水」とある。市報に載っていたのは、第七児童館外水道の水質検査結果であると思われるが、この検査の一年分の記録(九三年五月から今年三月まで)を岩木議員に調査していただき、いろいろなことが明らかになった。
 ここではとくに、新水質基準内で問題となる発癌性物質トリハロメタンの検査についてふれておきたい。その検査記録は六回あるのだが、その内市報に載った検査結果では総トリハロメタンは0.0167mg/リットル という数値になっている。じつはこれは六回の検査のうち、低い方から二番目である。これだけでも、市報をつくったひとはズルイと思う。それに対していちばん多いときは、九三年九月十三日の検査で0.029mg/リットル、次が0.0247mg/リットル となっている。
 日本の新水質基準では総トリハロメタンの規制値は0.1mg/リットル 以下だから、その意味では何ら問題がないと言えるのだが、この基準設定には専門家から様々な疑問が指摘されている。たとえば、ドイツの総トリハロメタンの規制値は0.025mg/リットルである。だから、私たちの飲んでいる上福岡の水道水は、昨年九月十三日にドイツの規制値を上回り、今年三月の場合でギリギリの数値となっていることになる。ドイツ人と日本人では発癌率が四倍も。とかをこれを決めたお役人に聞いてみたくなるが、そんな不毛な論争はここでは無用だろう。私たちの飲む側にとって、余計な化学物質は少ない方がいいに決まっている。 

「水からの速達」上映実主催のシンポジウム
50余の市民が熱い討論をおこなった

 
「安全」を踏みにじるゼネコン
5・28シンポの意味したもの
 

 さて細かい数字でうんざりしましたか。飲み水は百%「安全」ではないということ、規制基準そのものにも問題があるということは、ここからも明らかだろう。また情報を独占した一部の「専門家」や行政に「安全」をお任せしても、当局者にとって都合のいい情報操作しか期待できないのが現実ではないだろうか。
 ではどうするのか。家庭用浄水器などによる自衛もいいだろうが、やはり私たちが監視の目を緩めないことが肝心ではないのか、と思う。
 消費者運動での添加物の問題や、原発なども同じかもしれないが、特に水道は、巨大ダムにはじまり、浄水場や、延びきった配水管、さらに末端の水道設備や公共下水に至るまで、すべからくゼネコンと政治家の利権、汚職にまみれていて、「安全」などというと、そこから巨大な圧力がつぶしにかかるようになっている。それを利用する人の健康や命などそっちのけで、利益を追求する、利権に群がる、そういう構造がつくられている。
 わたしたちの街に水を供することを名目のひとつにして、荒川水域に幾つものダムが計画され(そしてかけがえのない自然をつぶし)、かつ、それが土曜会談合の舞台になったのは、その典型的実例である。この人たちにとって大切なのは「もうけ話」であって、明らかに飲み水の「安全」などではない。いまこうした構造を突き崩していくためにも、私たちが声を上げていくことは大切なのだ。
 そのような試みの一つとして、本紙面にも、参加した仲間の感想文を寄せていただいたが、五月二十八日の「水からの速達」上映ならびに「上福岡の川、水、ゴミ」と題したシンポジウム(主催、同実行委員会)は大きな成功だった。「水からの速達」に映し出された、巨大最終処分場の建設に抵抗する日の出町の人々の奮闘は、わたしたちの思いに通じるものがあった。また市内で様々に消費者運動や環境問題に取り組んでいる場を持ったことの意味は大きいと思う。こうした試みを続けながら、他ならぬ私たちの水への、私たちの関心を高めていこう。
 (シリーズ第三回「地下水の可能性」につづく)

上福岡市の水の話(シリーズ第1回)


 
~上福岡の水の話(シリーズ第1回)~

岩木英二と上福岡市民連合NO.74に掲載
1994.3.15
水びたしになった荒川河川敷のゴルフ場
この水が大久保浄水場で取水され
上福岡の水になる。

 
 水が「まずい」といわれて久しい。
いまは公共水道に期待する人は少なく、ミネラル・ウォーターや家庭用浄水器を利用する人が増えているようだ。そこには、発ガン性物質トリハロメタン(注)への自衛の意味もあるのだろう。このまま水はまずく、汚れていく一方なのだろうか。このシリーズの連載をつうじ、私達が常日頃飲み利用する上福岡の「水」に焦点をあて、その問題点や、取り得る対策も含め、みなさんと一緒に考える機会にしたい。
 

改善されない河川の汚染

 
 小選挙区の導入など問題の多かった細川政権の臨時国会で、もうひとつ注目すべき問題があった。二月六日付け朝日の「国民不在の役所の水争い」と題した解説記事によると、公共水道のもとになる河川の汚染を解決するとして厚生省が一年がかりで準備した「水道原水水質保全法案」が、なんと公共水道を所管する環境庁の横やりで、結局フロシキを広げただけで終ってしまったとある。
 当初の厚生省案では、取水地点の上流を規制区域にし、工場排水の規制、農薬の制限、合併処理浄化層の設置義務化など、旧来の姿勢からみれば「壮大」ともいえる汚染対策を盛り込んでいた。ところが「規制緩和の風潮にそぐわない」などの各省庁の意見が寄せられ、当初案は大きく後退、規制内容は骨抜きになって、国会での継続審議に回されるはめになったという。
 役所の「水争い」の是非についてはここではふれない。しかし、確実にいえることは、今もまた進行している河川の汚染に、政府は何らかの歯止めを加えることもできなかったということであり、その結果、水道の水はますます「まずく」なる一方だということなのである。
 

上福岡の水の経路をみてみよう

 
 じつは、このことは私達の飲み水に大きく関連している。上福岡の水は市内の五ヶ所の井戸から供給される地下水と、荒川大久保浄水場(治水橋下流)から供給される「県水」のブレンドである。通常地下水三、県水七の割合で上福岡浄水場の配水池にいったん集められ、塩素処理の後、給水塔からの自然流下で各家庭に供給されている。
 例外は上野台団地で、ここだけは百%地下水を亜硝酸酸性窒素の除去を施して供している。このため上野台の水ははっきりいって「うまい」のである。つまり上福岡の地下水は「うまい」というわけだ。
 ところが、大久保浄水場からの「県水」は「まずい」といわれている。飲んだ人の話では県水だけの百%の水というのは「飲めた代物ではない」そうだ。上福岡市の場合、地下水とブレンドしているのでなんとか水準を保っているというのが実情なのである。このことは、治水橋辺りの荒川をみればよくわかる。汚染の進行するこの川の水がとてもうまそうだとは思えない。

  
拡張されるか、上福岡浄水場
 
県水の増加=そして水はまずくなる
 ところで、上福岡市水道審議会が昨年十二月に答申した「第三期水道事業拡張事業計画(案)」によると、H18年度を目標年次に給水量の大幅な増加(一日平均最大量で30%強)を計画していることが明らかになった。この計画には地下水の滋養育成は含まれておらず、水道水の増加は県水の増加で賄う以外ないのであるから、計画が実現されれば地下水に対する県水のブレンド率が高まることになる。と、どうなるか。
 「うまい」地下水に対して「まずい」県水の割合が増え、その結果、ますます水は「まずく」なることが予測されるのである。
 「H18年度ではまだ先の話」などと思うなかれ、現在の施設は夏期の需要に耐えるのが手一杯。厚生省の認可が取れれば、H七年度にも配水池や、給水塔の建て替えが始まろうとしているのである。いま、水の問題を考えるに重要な時期を迎えている。(第1回 終了)
 
 
(注)トリハロメタンってなんだ
河川水を水源とする水道浄水場では通常浄水操作の前後に塩素を注入する。このとき塩素と水道水中の汚れが反応してできる厄介な物質がトリハロメタン。発ガン性は1974年アメリカで発表された。水道水中のクロロホルムほか三種類のトリハロメタン化合物を総称して言う。家庭用浄水器には取り除く性能を持つものもあるが、持続性は疑問視されている。
 
栃木県葛生町の「水騒動」
2月18日、葛生町の水源地である産業廃棄物処分場に廃棄物を運びいれる
ダンプカーを阻止する住民。住民の要求は「飲み水を守れ」というもの。
 

命と水を考える

命と水を考える
生活クラブ生協大井・上福岡準備支部
 
水がちっともおいしくない。そう感じたことはありませんか。
 
 それから、水質への不安。
ミネラルウォーターを使ったり、浄水器をつけている家庭も増えているようです。
 
そして、夏になると必ずやってくる水不足。
 こんな水をめぐる問題から、どこかで水道のやり方が間違っているのでは?
そんな疑問がわいても不思議ではありません。
 
そこで今回、私たちは、水をめぐる問題をテーマに取り上げることにしました。

 
 
「水生産」工場=大久保浄水場
 
私たちの地域(埼玉県西部)の水道水の約7割は、浦和にある県営の大久保浄水場で荒川の水を汲み上げたものが供給されています。残り3割は上福岡市内で汲み上げる自前の地下水です。
 
 まず私たちは、大久保浄水場を訪ねました。ここを見学して最初に気づいたことは、水は「加工品」で、浄水場という工場で生産されていることです。浄水場の係りの方も「水生産」という言葉を使っていました。そして、荒川のような河川の水のことを「表流水」といいます。
 この表流水を使う水生産と、水源地の山奥につくられるダムは、じつはひとつのものです。ダムで水をせき止めて、一定の量を下流に流し、その水で水道水をつくります。そして使われて汚れた水は、また川に戻されます。これは小学生でも知っている常識なのだそうです。(4年生で勉強します。)
 
 しかし、このごく常識的な、ダム─浄水場による水生産のシステムそのものを、見直すべきではないのか。水についての調査を進めると、そんな考えが、私たちの中には浮かんできました。
 
 ダムをつくるには、ばく大な資金が必要です。大がかりな土木工事をやり、巨大な設備を次々とつくって、「水」は私たちに供給されています。水の生産に必要な、ダムや設備費用、さらに下水処理施設まで含めれば、大部分が税金でまかなわれているので、私たちが「水道料金」として負担している以上に水の値段は高いのです。
 
 お世辞にも、きれいとはいえない荒川下流域の水を、わずか6時間で飲み水に変えてしまう浄水場の急速濾過システム。たくさんの薬品や、塩素を使う浄化システムにも問題点が指摘されています。
 また、大久保浄水場では、一人が毎日390・を使うという計算で、水の供給量を考えているそうですが、そんなにたくさんの水を使う私たちの生活も、見直しが必要かも知れません。
  
都幾川に大野ダムは必要か
 
 埼玉県などが供給対象となる利根川、荒川水系には「水資源開発計画」(フルプラン)というのがあって、現在30カ所でダムなどの水源設備が準備されています。このうち、私たちの地域にもっとも近いのが、都幾川に計画されている大野ダムです。私たちは5月の終わりに、このダムの予定地を訪ねてみました。
 
 計画では、122億円の税金をつぎ込んで建設される大野ダムが作り出す水道水の量は、毎秒0.035立方メートル。一日に直すと3000トン。これでは県民一人あたりコップ2杯分にもならない量で、井戸を一本掘れば足りてしまう量だそうです。
 
 私たちはダム計画で水没してしまう沢筋に降りてみました。
 そこには豊かな自然が残っていて、貴重な動植物が生息していました。
 沢の水はたいへんきれい。流れから石を取り上げてみると、カワゲラや蜻蛉(かげろう)の幼虫がはげしく動きます。地元の人に、この水を使った「うどん」と「地ビール」をごちそうしていただきました。そのおいしかったこと。
 そして、このような自然を壊してまでダムをつくる必要があるとは、とうてい私たちには思えなかったのです。
 
 アメリカでダム建設を進めてきた内務省開拓局の前総裁ダニエル・ビアードさんは、総裁時代に「ダム建設の時代は終わった」と発言しています。ダムによる水生産をやめ、広葉樹を保護して山の保水力を高めるなど、自然の力を利用した保水事業を選択するというのが世界の傾向なのだそうです。
 
水質よく、おいしい、地下水
 
 つぎに水道水の3割をしめる地下水の話をしましょう。
 
 私たちの地下水は、30年近くかけて地下200メートル以上に浸透した「深井戸」から取水します。
 そのおいしさ、水質の良さは文句なく水道関係者が認めるところ。上福岡の上野台団地ではいまなお100%地下水が使われていて、夏冷たく冬暖かく、そしておいしい、良質な水が使われています。なぜこれがもっと利用できないのでしょうか。
 
 一つは、地下水の利用しすぎは地盤沈下を引き起こすということがあります。しかし工業用水などの野放しの揚水が規制された結果、地盤沈下は現在は沈静化してきています。使いすぎないことで地盤沈下の抑制は可能なのです。
 
 ところで、上福岡周辺の市町では、工業用の地下水の揚水は自主的な努力で徐々に縮小してきていますが、上福岡の3つの工場では、市が飲み水として県から買う水の量と、ほぼ同じ量の地下水を工業用に使ってしまいます。
 
 図で見比べていただきたいのですが、近隣では、上福岡市内の工業揚水量は、工場が立ち並ぶ狭山市、川越市などと比べても格段に多いことがわかります。この地下水を飲み水に回して、県水を工業用に使えば、水道はおいしく、安いものになるはずです。
 
 地下水の汚染は心配ないのでしょうか。
 
 上福岡の地下水汚染で、問題になっているのは、地下水中の硝酸性窒素の含有量が水道水質基準の10ppmを越えているといわれるものです。硝酸性窒素の発生源には、畜産の屎尿、生活排水の地下浸透なども考えられますが、化学肥料(窒素)を大量に使う露地野菜、お茶畑などでの肥料の過剰使用が第一の原因と見られています。作物が吸収しない余分な窒素分が、硝酸性窒素となって、雨にとけ込み、地下水に混じっていくのです。
 
 汲み上げた地下水からこの汚染を取り除くことは技術的にはむずかしくありません。実際に上野団地ではイオン交換樹脂を用いた硝酸性窒素の除去装置が使われていますし、上福岡の水道事業全体でも同装置の設置が計画されています。
 
 しかし、地下水汚染は、人為的な公害なのですから、肝心なことは汚染源を取り除くことです。
 
 岐阜県の各務原(かがみはら)市では、化学肥料の削減により、汚染をくい止めたという成功例があります。また農薬や化学肥料を使わない有機栽培農家の周辺では、窒素濃度が低くなったという報告もあります。まずはきちんとした調査をして、汚染源を特定することが先決ですが、そのうえで化学肥料の過剰使用を削減したり、有機栽培を拡大するなど、汚染源を取り除くためにやれることはたくさんあるのです。
 雨水を下水や川に流さず、地下に浸透させるなどの人工涵養策をとっていくことも、地下水を保全するうえで欠かせないことです。
 
身近な川の再生を
 
 ダムをなくしたり、地下水の利用を考えるというのは途方もない話ですから、現実味がないように思えたかも知れませんね。
 
 そこで、水の問題を考えるうえで、私たちにもっと身近な問題をいくつか提案したいと思います。
 まず、川の環境をよくすることです。川の水は、飲み水となって私たちのところに戻ってくるのですから、水辺の環境を守ることはなにより大切です。
 
 私たちは、生態系保護協会の方に案内をお願いして、上福岡の新河岸川を散策しました。川の両側にある水際の草が、今年は刈られずに残されていました。この「草を刈らないで残す」のは、そこを隠れ家にしたたくさんの生き物を保護することにつながるのだそうです。これは今年から実施されたことです。
 
 ほんの30年ほど前まで、川は子どもたちの遊び場でした。生活排水の垂れ流しが続いて、どぶ川になって、いつしか川は私たちの記憶からも遠ざかっていきました。しかし、今でも川には、渡り鳥もくれば、昆虫や、貴重な植物が息づいています。この川を守ることは、私たちの水を守ることではないでしょうか。
 
 私たちは昨年から、大井町から富士見市に流れる砂川堀、同じく上福岡に流れる江川、それらの流れ込む新河岸川で自前の水質調査をおこなっています。ここで皆さんに報告しておきたいのは、江川の上流域と下流域を調査すると、下流の方が水質がよいという結果がでていることです。じつは、この中間に希にみる湧水群があって、上流の汚水を希釈してしまうためにこういうことがおきているのです。
 
 この地下水を汲み上げて池を作り、ビオトープ(人工化しない自然公園)を育てる努力をしている人たちがいます。いつのまにか池にはメダカが泳ぎだし、それをねらう白鷺(しらさぎ)やカワセミが姿を見せました。昨年の夏、はじめてそこには自然の(養殖ではない)ホタルがやってきました。
 
合成洗剤による汚染の問題を考える
 
 もう一つの提案は、合成洗剤の使用をやめるということです。
 
 水の問題を取り上げるとき、川の水が汚れているのは、生活排水だという声を聞きます。米のとぎ汁や、味噌汁、てんぷら油を流すと風呂桶何倍分の水で薄めないと魚が住めないという言い方をします。しかし、この言い方は少し変です。これらは生物の餌になるし、決して毒ではありません。
 仮に魚を飼育している20・の水槽に米のとぎ汁1・を流し込んだとしてみましょう。米のとぎ汁で魚は死にませんが、合成洗剤を10・も流せば魚は死んでしまいます。台所でゴキブリに合成洗剤をかけて死んでしまったのを見た人は多いでしょう。
 
 家庭の排水が環境悪化の原因であるような言い方は(ゴミでも同じです)、一面ではあたっていても、どこかで行政の責任を逃れようとするにおいを感じます。
 
 合成洗剤に使われる界面活性剤は、石けんと違い環境中で分解されにくく、毒性を保ちつづけるということがはっきりしています。先ほどは化学肥料の問題を取り上げましたが、農薬や、合成洗剤などの毒物と、そうでないものの違いを踏まえていくことが大切ではないでしょうか。
 
 大久保浄水場見学の際、汚染の問題が話題になったときに「合成洗剤による汚染はどうなのですか」という質問をしてみました。これについて、係りの方は「非イオン系の界面活性剤(いわゆるコンパクト洗剤、合成洗剤の5割がこれにあたる)については規制基準がなく、野放しの状態」と認めていました。
 
 飯能市では水道水に界面活性剤が混入して、風呂桶に水をくむと泡立つというような事例も報告されています。つまり自然分解のむずかしいこれらの毒性物が、私たちの飲み水になるというようなことが現実におきているわけです。
 
 ところで、「家庭用の浄水器があれば安心」と思っていらっしゃるでしょうか。それは決して万全でなく、法外な値段が付いている場合が多いということもつけ加えておきましょう。
 
 土壌に染み込む農薬や、化学肥料が取り除かれ、合成洗剤のような毒性物が、川や海に流れ込まなくなれば、自然はまた生命力を取り戻していくことができるかも知れません。それは川や海がきれいになり、多くの生命をはぐくむことができるようになるということでもあります。
 
 そんな命の水のために、せめて合成洗剤の使用をやめることを、今後も私たちは提案しつづけていきたいと考えています。
 
 
 
メダカが泳ぎ出すとカワセミも姿を見せた
 
新河岸川支流、不老川に流れ込む生活排水
 
豊富な水量をもつ江川の湧き水