2006年01月01日

上福岡市の水の話(シリーズ第3回)


 
~上福岡の水の話(シリーズ第3回)~
 
岩木英二と上福岡市民連合NO.76に掲載
1994.10.15
 
 
上福岡浄水場はこんなとこ
 先日、上福岡の浄水場を見学させていただいた。飲み水の安定した供給のために、二十四時間体制で勤務しておられる職員、スタッフの方には頭が下がる思いがした。
 上福岡の浄水場でいちばん大変なのは、県から送られてくる「県水」(荒川の水をくみ上げ、大久保浄水場で飲み水にしたもの)の量が毎日きっちりと決められていて、機械的に送られてくるのにたいし、使う側はその時々で多かったり、少なかったりすることにあるようだ。
 雨が続いたあとの晴れの日には一斉に洗濯や風呂の使用量が増えるし、盆や正月ともなれば工場がストップして使用量がぐんと減るということが起きる。上福岡では県水のほかに市内五つの深井戸からくみ上げている地下水をブレンドして市民に供給しているのだが、限られた施設を使って、日量の決まっている県水と市の地下水をあれこれ調整しながら市民に送りつづけるのである。水が足りなくなっても大変だが、余ってあふれたらなお大変だ。人が使う水の量は予測どおりというわけにはいかないのだろう。職員の方はデーターを見つめながら、気の抜けない毎日を送っている様子だった。
 浄水場というと、大きな設備で近代的なイメージなのだが、そこで働く人の苦労は、なかなか人間的な感じがしたのである。
 
地下水はおいしい
 この浄水場の見学の折り、たいへん興味深い実験をさせてもらった。職員の方が三種類の器に、それぞれ県水、地下水、双方をブレンドしてある上福岡の水道水を入れ、「おいしい順に並べてみてください」というのである。
 同行した人のうち、若い十代の青年は「おれ水なんか飲んだことねーからなあ」と戸惑っていたが、それでも六人中、五人の答えはぴったりと一致した。「おいしい」と感じた方から地下水、ブレンド水、県水の順である。飲み比べてその明快さに驚いたほどである。上福岡の地下水がいかに貴重なものであるかを、改めて教えられたようであった。
 地下水というと「何のことやら」と思う人でも、井戸水といえば馴染みのある感じを抱くだろう。上福岡の水は以前は井戸水だけを使っていた時代があった。いや、ちょっと前まで日本の大部分が井戸水を主要な飲み水にしていたのである。
 
地盤沈下は大丈夫か
 ところが、井戸水に汚染がひろがる。地盤沈下という公害が生まれる。主にはこの二つの理由で、井戸水は河川水に切り換えるべしという政策が進められてきた。
 まず、地盤沈下の問題を考えてみよう。雨が降って、それが地下に浸透して地下水になる。地下水は川のように流れているのではなく、土壌が水分を含んだ状態だから、その適量を越えて水をくみ上げれば、粘土層の脆弱部分が収縮して地盤沈下となる。しかし、地下水が滋養されていく適量を越えなければ、それは有効な資源として半永久的に使えるわけである。
 地下水の汲み上げがある程度制限された結果、すでに東京都などでは、地盤沈下は緩慢、沈静化しつつあるという。飲み水に必要な程度の量ならば、その大部分を地下水に依存しても地盤沈下は進行しない、そんな見方を示す研究者が増えてきた。おいしく、きれいな地下水は飲み水にして、水をたくさん使う工業、農業用水に河川水を回していこうという考え方である。

 
地下水の安全性は
 安全性はどうか。上福岡の地下水が水道水基準に低触してきたのは、硝酸性窒素、亜硝酸性窒素の含有量がわずかに基準値を越えたという点である。埼玉県西部にも広がっている有機溶剤のトリクロロエチレンなどの汚染物質は、さいさい上福岡の地下水からは基準値を上回って検出されてはいない。
 それはともかく、これらの地下水の汚染を浄化する技術はわりと簡単で、コスト的にも安く済むそうだ。上野台団地は、住民に地下水を供給しつづけているが、そこでは亜硝酸性窒素の除去装置が活躍している。上野台二千世帯分の水を確保するこの装置は、工事費を含めて数千万円ほどだそうである。莫大な税金をつぎ込んだ巨大ダムから流れ落ちる荒川の水を浄化し、トリハロメタンなどの問題を含んだコストの高い県水よりも、おいしく、安く、安全な水という点で地下水の優勢は明らかである。それなのに上福岡市は将来上野台団地にも、市の水道を導入する計画を持っているままだ。地下水を守っていくための議論は今後ますます大切なものになりそうである。
 
江川にムサシトミヨを
 上福岡を流れる江川は、大部分が暗渠になりコンクリートで蓋をされてしまった。わずかに駒林周辺で流れが見られるが、そこを良く見ると、所々でボコボコと湧き水がでているのがわかる。五月に行われた「水からの速達」上映の際のシンポジウムで、生態系保護協会の野沢裕司さんが、この湧き水を利用して上福岡の在来魚であるムサシトミヨを繁殖させようと呼びかけていた。この計画を実現するにあたって、水質や環境などの調査はこれからだそうだが、なんだか夢のある話ではないか。これも地下水を有効に利用する未来的な方法の一つといえるだろう。キチンと整備されて蓋をした江川と、自然の湧き水を生かした江川と、皆さんどちらが好ましいと思いますか。
 (第三回終了)