2006年01月01日

命と水を考える

命と水を考える
生活クラブ生協大井・上福岡準備支部
 
水がちっともおいしくない。そう感じたことはありませんか。
 
 それから、水質への不安。
ミネラルウォーターを使ったり、浄水器をつけている家庭も増えているようです。
 
そして、夏になると必ずやってくる水不足。
 こんな水をめぐる問題から、どこかで水道のやり方が間違っているのでは?
そんな疑問がわいても不思議ではありません。
 
そこで今回、私たちは、水をめぐる問題をテーマに取り上げることにしました。

 
 
「水生産」工場=大久保浄水場
 
私たちの地域(埼玉県西部)の水道水の約7割は、浦和にある県営の大久保浄水場で荒川の水を汲み上げたものが供給されています。残り3割は上福岡市内で汲み上げる自前の地下水です。
 
 まず私たちは、大久保浄水場を訪ねました。ここを見学して最初に気づいたことは、水は「加工品」で、浄水場という工場で生産されていることです。浄水場の係りの方も「水生産」という言葉を使っていました。そして、荒川のような河川の水のことを「表流水」といいます。
 この表流水を使う水生産と、水源地の山奥につくられるダムは、じつはひとつのものです。ダムで水をせき止めて、一定の量を下流に流し、その水で水道水をつくります。そして使われて汚れた水は、また川に戻されます。これは小学生でも知っている常識なのだそうです。(4年生で勉強します。)
 
 しかし、このごく常識的な、ダム─浄水場による水生産のシステムそのものを、見直すべきではないのか。水についての調査を進めると、そんな考えが、私たちの中には浮かんできました。
 
 ダムをつくるには、ばく大な資金が必要です。大がかりな土木工事をやり、巨大な設備を次々とつくって、「水」は私たちに供給されています。水の生産に必要な、ダムや設備費用、さらに下水処理施設まで含めれば、大部分が税金でまかなわれているので、私たちが「水道料金」として負担している以上に水の値段は高いのです。
 
 お世辞にも、きれいとはいえない荒川下流域の水を、わずか6時間で飲み水に変えてしまう浄水場の急速濾過システム。たくさんの薬品や、塩素を使う浄化システムにも問題点が指摘されています。
 また、大久保浄水場では、一人が毎日390・を使うという計算で、水の供給量を考えているそうですが、そんなにたくさんの水を使う私たちの生活も、見直しが必要かも知れません。
  
都幾川に大野ダムは必要か
 
 埼玉県などが供給対象となる利根川、荒川水系には「水資源開発計画」(フルプラン)というのがあって、現在30カ所でダムなどの水源設備が準備されています。このうち、私たちの地域にもっとも近いのが、都幾川に計画されている大野ダムです。私たちは5月の終わりに、このダムの予定地を訪ねてみました。
 
 計画では、122億円の税金をつぎ込んで建設される大野ダムが作り出す水道水の量は、毎秒0.035立方メートル。一日に直すと3000トン。これでは県民一人あたりコップ2杯分にもならない量で、井戸を一本掘れば足りてしまう量だそうです。
 
 私たちはダム計画で水没してしまう沢筋に降りてみました。
 そこには豊かな自然が残っていて、貴重な動植物が生息していました。
 沢の水はたいへんきれい。流れから石を取り上げてみると、カワゲラや蜻蛉(かげろう)の幼虫がはげしく動きます。地元の人に、この水を使った「うどん」と「地ビール」をごちそうしていただきました。そのおいしかったこと。
 そして、このような自然を壊してまでダムをつくる必要があるとは、とうてい私たちには思えなかったのです。
 
 アメリカでダム建設を進めてきた内務省開拓局の前総裁ダニエル・ビアードさんは、総裁時代に「ダム建設の時代は終わった」と発言しています。ダムによる水生産をやめ、広葉樹を保護して山の保水力を高めるなど、自然の力を利用した保水事業を選択するというのが世界の傾向なのだそうです。
 
水質よく、おいしい、地下水
 
 つぎに水道水の3割をしめる地下水の話をしましょう。
 
 私たちの地下水は、30年近くかけて地下200メートル以上に浸透した「深井戸」から取水します。
 そのおいしさ、水質の良さは文句なく水道関係者が認めるところ。上福岡の上野台団地ではいまなお100%地下水が使われていて、夏冷たく冬暖かく、そしておいしい、良質な水が使われています。なぜこれがもっと利用できないのでしょうか。
 
 一つは、地下水の利用しすぎは地盤沈下を引き起こすということがあります。しかし工業用水などの野放しの揚水が規制された結果、地盤沈下は現在は沈静化してきています。使いすぎないことで地盤沈下の抑制は可能なのです。
 
 ところで、上福岡周辺の市町では、工業用の地下水の揚水は自主的な努力で徐々に縮小してきていますが、上福岡の3つの工場では、市が飲み水として県から買う水の量と、ほぼ同じ量の地下水を工業用に使ってしまいます。
 
 図で見比べていただきたいのですが、近隣では、上福岡市内の工業揚水量は、工場が立ち並ぶ狭山市、川越市などと比べても格段に多いことがわかります。この地下水を飲み水に回して、県水を工業用に使えば、水道はおいしく、安いものになるはずです。
 
 地下水の汚染は心配ないのでしょうか。
 
 上福岡の地下水汚染で、問題になっているのは、地下水中の硝酸性窒素の含有量が水道水質基準の10ppmを越えているといわれるものです。硝酸性窒素の発生源には、畜産の屎尿、生活排水の地下浸透なども考えられますが、化学肥料(窒素)を大量に使う露地野菜、お茶畑などでの肥料の過剰使用が第一の原因と見られています。作物が吸収しない余分な窒素分が、硝酸性窒素となって、雨にとけ込み、地下水に混じっていくのです。
 
 汲み上げた地下水からこの汚染を取り除くことは技術的にはむずかしくありません。実際に上野団地ではイオン交換樹脂を用いた硝酸性窒素の除去装置が使われていますし、上福岡の水道事業全体でも同装置の設置が計画されています。
 
 しかし、地下水汚染は、人為的な公害なのですから、肝心なことは汚染源を取り除くことです。
 
 岐阜県の各務原(かがみはら)市では、化学肥料の削減により、汚染をくい止めたという成功例があります。また農薬や化学肥料を使わない有機栽培農家の周辺では、窒素濃度が低くなったという報告もあります。まずはきちんとした調査をして、汚染源を特定することが先決ですが、そのうえで化学肥料の過剰使用を削減したり、有機栽培を拡大するなど、汚染源を取り除くためにやれることはたくさんあるのです。
 雨水を下水や川に流さず、地下に浸透させるなどの人工涵養策をとっていくことも、地下水を保全するうえで欠かせないことです。
 
身近な川の再生を
 
 ダムをなくしたり、地下水の利用を考えるというのは途方もない話ですから、現実味がないように思えたかも知れませんね。
 
 そこで、水の問題を考えるうえで、私たちにもっと身近な問題をいくつか提案したいと思います。
 まず、川の環境をよくすることです。川の水は、飲み水となって私たちのところに戻ってくるのですから、水辺の環境を守ることはなにより大切です。
 
 私たちは、生態系保護協会の方に案内をお願いして、上福岡の新河岸川を散策しました。川の両側にある水際の草が、今年は刈られずに残されていました。この「草を刈らないで残す」のは、そこを隠れ家にしたたくさんの生き物を保護することにつながるのだそうです。これは今年から実施されたことです。
 
 ほんの30年ほど前まで、川は子どもたちの遊び場でした。生活排水の垂れ流しが続いて、どぶ川になって、いつしか川は私たちの記憶からも遠ざかっていきました。しかし、今でも川には、渡り鳥もくれば、昆虫や、貴重な植物が息づいています。この川を守ることは、私たちの水を守ることではないでしょうか。
 
 私たちは昨年から、大井町から富士見市に流れる砂川堀、同じく上福岡に流れる江川、それらの流れ込む新河岸川で自前の水質調査をおこなっています。ここで皆さんに報告しておきたいのは、江川の上流域と下流域を調査すると、下流の方が水質がよいという結果がでていることです。じつは、この中間に希にみる湧水群があって、上流の汚水を希釈してしまうためにこういうことがおきているのです。
 
 この地下水を汲み上げて池を作り、ビオトープ(人工化しない自然公園)を育てる努力をしている人たちがいます。いつのまにか池にはメダカが泳ぎだし、それをねらう白鷺(しらさぎ)やカワセミが姿を見せました。昨年の夏、はじめてそこには自然の(養殖ではない)ホタルがやってきました。
 
合成洗剤による汚染の問題を考える
 
 もう一つの提案は、合成洗剤の使用をやめるということです。
 
 水の問題を取り上げるとき、川の水が汚れているのは、生活排水だという声を聞きます。米のとぎ汁や、味噌汁、てんぷら油を流すと風呂桶何倍分の水で薄めないと魚が住めないという言い方をします。しかし、この言い方は少し変です。これらは生物の餌になるし、決して毒ではありません。
 仮に魚を飼育している20・の水槽に米のとぎ汁1・を流し込んだとしてみましょう。米のとぎ汁で魚は死にませんが、合成洗剤を10・も流せば魚は死んでしまいます。台所でゴキブリに合成洗剤をかけて死んでしまったのを見た人は多いでしょう。
 
 家庭の排水が環境悪化の原因であるような言い方は(ゴミでも同じです)、一面ではあたっていても、どこかで行政の責任を逃れようとするにおいを感じます。
 
 合成洗剤に使われる界面活性剤は、石けんと違い環境中で分解されにくく、毒性を保ちつづけるということがはっきりしています。先ほどは化学肥料の問題を取り上げましたが、農薬や、合成洗剤などの毒物と、そうでないものの違いを踏まえていくことが大切ではないでしょうか。
 
 大久保浄水場見学の際、汚染の問題が話題になったときに「合成洗剤による汚染はどうなのですか」という質問をしてみました。これについて、係りの方は「非イオン系の界面活性剤(いわゆるコンパクト洗剤、合成洗剤の5割がこれにあたる)については規制基準がなく、野放しの状態」と認めていました。
 
 飯能市では水道水に界面活性剤が混入して、風呂桶に水をくむと泡立つというような事例も報告されています。つまり自然分解のむずかしいこれらの毒性物が、私たちの飲み水になるというようなことが現実におきているわけです。
 
 ところで、「家庭用の浄水器があれば安心」と思っていらっしゃるでしょうか。それは決して万全でなく、法外な値段が付いている場合が多いということもつけ加えておきましょう。
 
 土壌に染み込む農薬や、化学肥料が取り除かれ、合成洗剤のような毒性物が、川や海に流れ込まなくなれば、自然はまた生命力を取り戻していくことができるかも知れません。それは川や海がきれいになり、多くの生命をはぐくむことができるようになるということでもあります。
 
 そんな命の水のために、せめて合成洗剤の使用をやめることを、今後も私たちは提案しつづけていきたいと考えています。
 
 
 
メダカが泳ぎ出すとカワセミも姿を見せた
 
新河岸川支流、不老川に流れ込む生活排水
 
豊富な水量をもつ江川の湧き水